今回は月刊コミックアライブに掲載され、単行本にまとめられたリゼロ外伝の第4弾であるEX4『最優紀行』の「流血の帝国外交」についてネタバレ解説しました。「剣聖と雷光の銀華乱舞」は省きます。
この話は7章を見る上でよりヴォラキア帝国について理解が深まる話だと思いますので、参考にしてみてください。そして王戦が始まる前の話になります。
また、ヴィンセントやプリシラが皇帝の座を巡って争う『選帝の儀』が描かれた『紅蓮の残影』とプリシラとアルが出会う前の『赫炎の剣狼』の記事は既にあるので、そちらも7章に関係のある話なのでよければ見てみてください。
ゼロカラカサネルイセカイセイカツ | アポカリプスガールズ | ||||
剣鬼戦歌 | 紅蓮の残影 | ||||
赫炎の剣狼 | Sword Identity | ||||
EX4最優紀行 | Golden Sibilings | ||||
オルコス領の赤雪 | 魔女のアフターティーパーティ | ||||
氷結の絆 | ゲーム偽りの王戦候補 |
「EX4最優紀行・流血の帝国外交」のネタバレ
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ヴォラキア帝国へ
王国で満場一致で第二位の個人戦力として認められているマーコスが、ラインハルト、ユリウス、フェリスの3人を呼び出し、要人の警護としてヴォラキア帝国へ向かうことを言われる。しかしラインハルトは国外へ出ることは禁じられている為におかしいと思う。マーコスによればヴォラキア皇帝がラインハルトとの謁見を要望しているという。
ルグニカ王国とヴォラキア帝国の歴史は古く、良好とは言えない。400年前の嫉妬の魔女の恐怖が覆い尽くした時代より以前から諍いは続いていた。しかしそんな歴史に終止符を打ったのはルグニカが龍と結んだ盟約。それが王国を守り帝国の魔の手を遠ざけて争いは沈静化した。しかしそれは表向きの話。今も小競り合いはなくなっていない。
亜人戦争の時も散々牽制され、邪龍バルグレンが暴れた時も帝国の人間が関わっていた話だとフェリスは言う。しかしそれも公には認められていない疑惑で王国内で不穏な動きをしていた輩が邪龍を呼び出したと言われているとユリウスが言う。帝国には『飛竜繰り』があるから龍が操れてもおかしくないかとフェリスが言う。
『飛竜繰り』とは帝国のみが有する飛竜と呼ばれる生物を手懐ける技術。飛竜は凶暴で人に懐かないが、それを従える技術を持つ帝国なら格上の龍でも手懐けられるのではないか。もしそれで龍の大群がルグニカに来たらラインハルトに全滅させてもらわなきゃとフェリスが言うとラインハルトは万一そうなったら微力を尽くさせてもらうよと言う。マーコスすら上回る剣聖の加護を持つラインハルト。その実力は文句なしに王国最強、個人戦力1位とされる。
現在ルグニカ王国は深刻な問題を抱えている。それは4ヶ月ほど前、王城で突如蔓延た流行病が切っ掛けにルグニカ王家に連なる血族を根絶やしにした。結果、国王と血筋を失った王国は王座を空席にしたまま今に至る。それだけに今回ヴォラキア帝国との外交は非常に重要な意味を持つ。国難に晒されるルグニカにとってヴォラキアの動向は国家存亡に関わる重大事だった。
移動する竜車の中にいるのは、王国の頭脳である賢人会の議長であり王国の最重要人物であるマイクロトフ・マクマホン。そしてかつてはその武名で鳴らした王国有数の戦士だったボルドー・ツェルゲフ。
帝国兵は精強たれ
この二人が今回の警護対象で三人が守らなければいけない王国の要人。そうして、水晶宮が見えてくる、それはヴォラキア帝国の帝都ルプガナに構える皇城。城を形作るあらゆる箇所に魔石が使われ帝国の豊富な魔鉱石資源と皇帝の強大な権力を象徴する美しくも威圧的な建物。フェリスはそれを見て噂には聞いてたけど悪趣味な城と言う。
するとマイクロトフがあれで案外機能的な建物であり、防衛機能に貢献していると話す。有事の際には魔石が一つの魔法を増大し、本来の数千倍の威力へと拡大するとか…。魔石細工の技術が凄いのはそうだと思うとフェリスが言うと視線をラインハルトに向ける。ラインハルトの首には金属製の首輪が嵌められている。首輪には特殊な加工と魔石が埋め込まれていて、淡く発光しているのが特徴だった。『服従の首輪』ヴォラキアの国境を抜ける際ラインハルトに嵌められた枷だった。
ラインハルトは倦怠感に似たものは感じると言い、どのぐらい力が制限されるかは未知数だと言う。その首輪は能力を制限するというよりは自由を奪って隷属させるものに近い。正直招かれたラインハルトに首輪を嵌めるなど理不尽な要求と言わざるを得ない。そしてボルドーが「剣聖に最優、そして青か。…確かにあの頃のような騒がしさだ」という。
神聖ヴォラキア帝国は世界図の南方を支配下に置く強大な国家。温暖な気候に恵まれ、一年を通して夏季や氷季といった寒暖差がほぼ見られない。恵まれた環境は退屈を生み、退屈は堕落への道を補強する。そうした誘惑を嫌いヴォラキアでは古くから『帝国兵は精強たれ』という教戒が広まっており、それは国政にも反映されている。
強者が弱者の上に立つことが尊重され、その姿勢は皇帝でも例外ではない。皇帝を選ぶ『選帝の儀』などまさにその象徴。皇帝は国内の各地で多数の妻を娶り、多くの子を生す。生まれた子供たちに帝位を競わせ最後の生き残ったものが次代の皇帝を継ぐ。兄弟姉妹を滅ぼし帝位に就く。もはや獣の理屈だが、皇帝自ら率先して在り方を示すことでその強固な信念は帝国民の圧倒的な支持を得ている。
ヴィンセント・ヴォラキア
それでは早速1人目。まずは……
第77代神聖ヴォラキア帝国皇帝【ヴィンセント・ヴォラキア】#rezero #リゼロ pic.twitter.com/1dQ1qzUCi3
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「ーー余が許す。面を上げよ」投げかけられる声は、耳にするだけで他者の魂まで縛るような貫禄に満ちていた。ゆっくりとユリウスは頭を上げる。そして正面の壇上の玉座に堂々と座っている人物に注目し息を詰めた。切れ長な瞳をした黒髮の美青年。年齢は二十代半ば、色白の肌としなやかな体つきを赤と黒を基調とした装束に包んでいる。整った容姿が際立つものの、それ以外には目を惹く外見敵特徴には乏しい人物。その眼光と佇まいから放たれる強烈で圧倒的な鬼気を除けば。彼こそが神聖ヴォラキア帝国第七十七代皇帝ヴィンセント・ヴォラキア。
玉座の裏には国紋である『剣に貫かれた狼』が描かれた国旗が飾られている。左右には甲冑を着込んだ兵士が整列し一糸乱れぬ統率で静寂を守り続けていた。「しばし見ぬ間に一段と老けたなマイクロトフ」とヴィンセントが話しかける。マイクロトフも「皇帝陛下におかれましてはますます旺然たるご様子。この老骨はあとは衰え朽ちるばかりです」と言うと「よくよく舌の回る老木よ。余が帝位について七年になるが、貴様は色づいていたことなど初見の頃より一度もないわ」と言う。
そんな会話の中、ボルドーが「鬼気に勝る暴君ぶり。なるほどヴォラキアの皇帝らしい傲慢さだ」と皇帝を侮辱する発言に帝国兵がボルドーへ駆け寄り首に剣を突きつける。しかし「なんだ?即座に斬りかかるものと思ったがずいぶん慈悲深いものだな、帝国兵」と言うと立ち上がる。すると鍛え上げられた帝国兵よりその老躯の方が上背がある。見下される形になった兵がボルドーの圧力に怯み、剣先が揺れた。「やめよ。余の御前ぞ」そうして剣が収められた。
「お優しいことだな皇帝陛下。特使には寛容に接するよう星詠みでも受けられたか?」「余の抱える『星詠み』が有能なのは事実だが、あれの言いなりになる気はない。ましては貴様の処遇など星詠みに問うまでもないことよ」「躾の足りぬ犬に吠えられて癇癪を起こすことなど馬鹿げた行いというだけのこと。躾というより頭の不足か?なればますます哀れざるを得まいよ」「なんだと…?」ボルドーの挑発が挑発で上塗りされる。しかし「今の会話は『マグリッツァの断頭台』の一節、老いた識者と父王のやり取り」とユリウスが話す。
己の首を落とせ
するとヴィンセントが「教養の足りぬ飼い犬と違い、少しは真っ当に物を知る人間が混ざっているようだな」と言う。それを聞いてマイクロトフとヴィンセントのやり取りも書物の内容を引用したものだとボルドーも悟り、いらぬ恥を掻いたぞと言う。そしてボルドーがヴィンセントに謝罪すると「なれば余も犬呼ばわりを撤回せねばなるまいな。『猛犬』ツェルゲフ卿よ」と言う。
そして本題に入りマイクロトフは王国と帝国との間に不可侵条約を締結させていただきたいと話す。すると王国の地盤の揺らぎについて話し国王と血筋が絶えたなら神龍との盟約はどうなるか言い「龍の後ろ盾がなければ王族など人が好いだけの愚物だ」と言う。それを聞いて、その王族と浅からぬ絆で結ばれた騎士が一人、激情の瞳をしていた。フェリスが「皇帝陛下であろうと国王や王族の侮辱は聴き逃がせない」と言う。
そして忠義を誓うにふさわしい人徳者だったと言うとヴィンセントが「他に秀でた才無きものほど、そうした目に見える志とやらを神聖視する。忠義の為であれば命すらも投げ出せるとな」「そこな雑兵。そう、貴様だ」するとヴィンセントが先程ボルドーに剣を突きつけた兵士を呼ぶ。そして「その剣で己の首を落とせ」と言う。「余は寛大だ。二度までは許そう。その剣で自らの首を落とせ。できぬのか?」
兵士が喉を震わせ兜を外す。まだ二十代と見られる若者。そのまま彼は腕に力を入れ一思いにーー「さすがにこれは黙って見過ごせません」目にも留まらぬ速度で割り込み刀身を抑えたのはラインハルトだった。それを見てヴィンセントは「風説はあてにならんな。大いに評価を見誤らせる。想像よりよほど底しれぬ」と言う。そうしてヴィンセントは兵士を下がらせる。そうしてヴィンセントは要求を聞き入れ、裁定は追って下すと言う。
「ああ、そうだ」そしてユリウス達が出ようとした謁見の間の扉を目前に足を止める。「余は三度は言わぬ。そう言ったな?」ヴィンセントがそうこぼした直後、嫌な音がした。剣を手にした若者が呻いてその場に倒れ込んだ。命を拾ったはずが自害を選んだ。「ーーっ、なんで」フェリスが若者に駆け寄ろうとする。しかしその接近を周囲の帝国兵が遮る。「な…」「これがヴォラキアの統制である。努々、忘れるな」
階級と九神将
廊下でフェリスが止められなかったらまだ助けられたのにと言う。すると「余所からのお客さんにはさぞや驚かれたでしょうなぁ」と帝国兵が気安く話しかけてきた。いずれの帝国兵とも雰囲気が異なる人物だった。闘争心は感じず、素顔を晒している彼は薄い灰褐色の髪を後ろに撫で付けた長身で、垂れた目尻と柔らかな微笑みが親しみを感じさせるが佇まいからは槍の穂先のような油断ならなさが漂っていた。
そしてユリウスは驚いてないといえば嘘になると返しながら、男の素性に検討がつく。「確かヴォラキア帝国には『将』と呼ばれるのでしたね」「よくご存知で。兵卒、上等兵、三将、二将と上がってくしきたりでして、将まで上がれば息苦しい鎧姿から解放されるんですがね」「一将は特に帝国屈指の実力者で全部で九人。『九神将』とされているとか」
ヴォラキア帝国では出自や血統が重要視されず、己の実力を示すことだけが取り立てられる条件となっている。それがまかり通るからこそ、強さを明示する序列の影響力は大きい。『九神将』の位はルグニカにおける騎士団長の地位に匹敵する。そしてユリウスの見立てが正しければーー「隠す必要もなさそうなんで明かしやす。お察しの通り『九神将』が一人、バルロイ・テメグリフでさぁ。どうぞお見知りおきをってなもんで」
そして九神将の監視付きかとボルドーが言うとバルロイがそれだけ閣下がお客人に配慮してることだと言う。しかしフェリスは謁見の間で起こったことを見ても方向性がズレてるという。するとバルロイは自分たちにとっては日常茶飯事だと言う。そして自分の鎧に刻まれる国紋を指し「貫かれる狼、その目は死んじゃいやせん。これがヴォラキアの在り方。死ぬ寸前だろうと生に媚びる真似だけはできないってやつです」「あの自害した兵はどっちにせよ生きて謁見の間を出られやしなかった。ツェルゲフ卿に剣を向けて、けど怯んじまった。その時点で死んだんですよ」あれだけ大勢の前で怯んだところを見せたら使い物にならない。自害もできなければ周りが黙っちゃいない。さらに臆病者の血は臆病者を呼ぶということで、家族すらどうなるかわからないという。そうして客室へ到着する。
水晶宮
ユリウス達は皇帝から連絡が来るまで、客室で待つことになる。そこでボルドーが落ち着かない場所だと言い「水晶宮…魔石の中でも特に希少な魔晶石をいくつもちりばめた世界最高峰の技術で建造された建物ですからね。城内に漂っているマナの密度が非情に濃い。確かに注意していないとマナ酔いしかねません」とユリウスが言う。これだけマナの密度が濃いと普段と同じ調子で魔法を使うことはできないし、場合によっては過剰なマナの供給で術式が暴発しかねないとか。
つまり、普段の実力を発揮するにはこの環境に体を慣らして置く必要がある。その点だけでこの水晶宮の防衛力の高さの証明になっていた。そしてラインハルトは窓から帝都を見ていた。客室は水晶宮の上層にあり、帝都の半分を一望できる立地。帝都ルプガナは四角い外壁の中に都が丸々収まる形。貧富の差が明確に分かれる王都とは異なり、帝都の住民生活の質は一つの街の中で大きな違いはないように見られる。
それから数時間が経過した。さすがに動きがなさすぎるとユリウスが思う。フェリスも拷問だと叫び始める。と、そんな時、兵士の一人が客室に現れる。しかしお呼びがかかったのはなぜかラインハルトだけで皇帝に呼ばれたということだった。ユリウスたちとラインハルトは同じ近衛騎士団に所属する王国騎士。しかしラインハルトが剣聖の称号を継いだのは彼が十歳にもならない頃で、当時から王国の命令を受け様々な役割に従事していた。
そうした役目の中には口外を禁じられているものも少なくない。例えば直近の例を挙げればーー「アウグリア砂丘のプレアデス監視塔」ルグニカ王家を襲った死病の対抗策を得るべく全知と名高い『賢者』を尋ねる使者の役目だった。400年前、世界を混沌へ陥れた嫉妬の魔女を封印した偉大な三人の英雄、その一人が賢者。王国の東端にあるアウグリア砂丘、そこにあるプレアデス監視塔に賢者は今も健在であり、話しを聞くことができればと、王家を救う為に最後の希望を託されたラインハルト。だが、役目は果たされなかった。王家が滅び、神龍と結ばれた盟約の保証は失われた。こうして帝都にやってきたのも、そうした事情があってのことだとユリウスは言う。フェリスはラインハルトは責任を感じてるんだろうねと言う。
異変
ユリウスの親しい二人の友人はどちらも王家を救えなかったことを悔やんでいる。ラインハルトは先程の役目を果たせなかったこと。そしてフェリスは『青』と呼ばれる王国最高の治癒術師、傷と病を癒やすことは誇りでもあった。出発の前日、ユリウスだけマーコスに呼ばれ、二人をよく見ているようにと言われた。そうした意識からユリウスは二人の心情を感じていた。
そしてフェリスとユリウスが同時に異変に気づく。廊下に帝国兵もいなくなっていた。嫌な予感がするとフェリスとユリウスがボルドーとマイクロトフを残して見に行くことに。水晶宮の中を人が走り回る音が聞こえてきた。そしてフェリスが「ユリウス!血の臭い!」そう言い放つ。そして騒ぎの原因にたどり着く。閉められた大扉の前で帝国兵が過激な声を上げている。そしてぶち破られた扉の中に、血溜まりに伏した複数の人影、その中にバルロイ・テメグリフもいた。そしてその傍らで犠牲者を見下ろす影が一つ。ラインハルトが無傷で立っていた。
一見してラインハルトがバルロイを害したと思われてもおかしくない。しかしラインハルトに限ってそんな軽率な行動は犯すまい。この状況は何かがおかしい。結論を後回しにしてユリウスはフェリスにバルロイの治療を委ねる。しかし「貴様ら動くんじゃない!」と帝国兵に妨害される。さらにラインハルトにも剣が向けられる。
そこへ「ーー余の城で騒がしいぞ。凡夫共。いったい何事だ」そこにヴィンセントが来た。室内の様子を眺めると「…なるほどな」そうしてラインハルトを見る。するとラインハルトは姿勢を正し胸に手を当てる。「恐れながら皇帝陛下。事情の説明を」「閣下!あやつらは恐れ知らずにも水晶宮で将を害した大逆人!これは宣戦布告も同然です!」と帝国兵に遮られる。
王国と帝国の戦争。その口実にこの茶番が仕組まれた可能性がある。その場合ヴォラキアの人間がどこまで関わっていたか。あるいはヴィンセントこそが謀略の張本人ーー「大逆とは大きく出たな。確かにこれが見たままの事情であれば此奴らの行いは血迷ったも同然よ。余の膝元でこの蛮行。まともな判断力があればしようはずもない」「ヴィンセント陛下…」この場にボルドーとマイクロトフを欠いて両国に軋轢を生むことは避けなくてはならない。
殺害と誘拐
つづいてはこちらのキャラクター。
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しかしその猶予は与えられなかった。「皇帝陛下!」鋭い声があり、刹那、ラインハルトがヴィンセントの体へ飛びついていた。皇帝を腕に引き寄せ、目にも留まらぬ速さで部屋の奥へと飛びずさる。一瞬の行動にユリウスを含めた全員が呆気にとられた。最悪の状況が完成した。
その状況に帝国兵が叫ぼうと「貴様、閣下からーー」「『おお、罪深き叛逆者よ!月も星も顔を背けるほどにおぞましく仄暗い咎人よ!それほどに私の命がほしいのならば、その汚れた鋼に我が血を吸わせるがいい!』」「ーー!?」次の瞬間皇帝が部屋中に響き渡る声でそう叫んだ。ラインハルトを挑発する内容であり、帝国兵達を動揺と戦慄が駆け抜ける。ーーただし、ユリウスだけが皇帝の真意を違った形に解釈する。瞬間、皇帝の視線がユリウスを捉える。自らを『余』ではなく『私』と称した皇帝がまるで何かを試すかのように。
今の一声は古典文学『マグリッツァの断頭台』の一幕。老王が奸臣を謀り、己が雇った刺客に自らの身柄を連れ出させる際の台詞そのもの。皇帝の狙い、状況の変化、ラインハルトの存在、下すべき判断は一つ。「ラインハルト、陛下をお連れして、窓だ!」ユリウスの指示にラインハルトは即座に応じてヴィンセントを抱えたまま窓を背中で突き破って外へ飛び出す。「アロ!イク!」その声に応じ、光が帝国兵へ突風を浴びせる。そしてユリウスはそのままフェリスを抱え込みラインハルトが飛び出した窓へ向かう。「待って待ってそれちょっと待ってってばぁぁぁ!?」他国の将軍を殺害し皇帝を誘拐して逃走。事態は最悪の一途を辿りつつあった。
客室に残されたボルドーとマイクロトフ。客室に押し寄せた帝国兵の先頭にいた男に起こった事態を説明され、よって我々も拘束させてもらうと言い放つ。黄金の鎧を纏い髪を獅子の鬣のように伸ばしたその人物はゴズ・ラルフォン。九神将の一人だった。それからゴズが出ていき見張りの為に数名の帝国兵が客室に残った。「私達に帝国への敵意があれば、賢人会の二人の首と皇帝陛下を引き換え…実に値頃な条件と言えなくもありませんからな」「…物騒な事を言われるなマイクロトフ殿」「ほっほっほ、ついつい」そうして、マイクロトフは不可解であり状況がおかしな動きをしすぎると言う。そして究極3人の考えに期待するしかないと言う。
時間が盗まれた
ユリウス達は高い城壁を跳躍力と風魔法の応用で乗り越える。そしてそのまま首尾よく場外へ飛び出し、街の方ではなく、帝都の中にある森林地帯へと潜り込んだ。「…もうなんでこんなことになっちゃうのかなぁ」フェリスが唸る。そしてラインハルトが抱えていたヴィンセントを解放する。「ヴィンセント陛下、ご無礼と不自由をおかけしたことをお詫びいたします」「よい、許す。貴様の行いは余の思惑を外しておらぬ故な。しかし、あれだけ早く駆けていながら風も揺れも感じなかったのはいかなる道理だ?」「それでしたら、地竜と同じ『風除けの加護』の影響です」「それを人の子である貴様が宿すのが問題なのだがな。ともあれ」「よくぞ余の意図を解した。褒めて遣わす」とユリウスに向き直る。
「ありがたきお言葉、ですが事前に謁見の間で『マグリッツァの断頭台』の話が出ていなければ察せたかどうか。それも踏まえ陛下には驚かされるばかりです」そしてユリウスはラインハルトに先程の惨状の話を聞く。バルロイが倒れていたのはラインハルトによるものではないのかと聞くと「その答えはわからない」と言う。「呼び出しを受けた僕は大部屋へ案内された。そこで陛下がいらっしゃるのを待つようにとね。だが、皇帝陛下はいらっしゃらなかった」
「大部屋には先にバルロイ殿の姿があった。あの場で倒れていた、他の帝国兵の姿も。陛下の護衛とそう言っていたが…」「一瞬何かが僕の意識に強くのしかかってきたのは確かだ。それに時間を一秒か二秒は盗まれたと思う。それが晴れた時にはあの惨状だった」「つまり何秒か夢を見てて、目が覚めたらみんなが死んじゃってたってこと?」フェリスが簡単にまとめる。そして「それってめちゃめちゃ嘘臭くにゃい?」「だから僕も説明に困っているんだよ」
そしてユリウスがなぜ皇帝があの部屋へ足を運んだのか聞き、しかしその場合は…と言葉を繋ぐと「余が貴様らに連れ出され騒ぎ立てぬことが腑に落ちぬか?」「はい。それにあの場で『マグリッツァの断頭台』になぞらえ私達に自身を連れ去るよう命じたのは他ならぬ皇帝陛下…我々には窺い知れない深謀遠慮があったものと推察します」するとヴィンセントはおおよそのところは言い当てたから及第点としておこうと言う。
鬣犬人と鋼人
つづいてはこちらのキャラクター。
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そしてラインハルトが皇帝を引き寄せたのは看過できない敵意の高まりを感じてそうしたとか。そしてヴィンセントがあの場に向かったのは水晶宮の鼓動が原因と言う。子細を説明してやるつもりはないと言うと周囲を警戒させていた準精霊が警告する。
頭上から高速回転しながら敵が真っ直ぐユリウス達へ迫った。ユリウスは騎士剣を閃かせ攻撃に合わせ相手を大きく後ろへ吹き飛ばす。「あああ、クッソがぁ!いってぇなぁ、オイ!」口汚く罵声を上げたのは子供のような体躯の獣人だった。全身を茶色の体毛で覆い、一部が斑に黒く染まり牙の生え揃った口元。鬣犬人の若者だった。「全身に武器を纏った鬣犬人…グルービー・ガムレット殿とお見受けする」「ああああん!?てめえ人様のこと知ってやがんのかよ、チクショウ」そしてヴィンセントに聞くと九神将の一人だと言う。
そしてユリウスはこちらの話を聞いていただきたいというも「言い訳すんじゃねえ!聞く耳持つかよ!ーーモグロ!」そう言うと後ろにいたフェリスの体が宙を舞う。そしてそれをしたのが土中から飛び出してくる赤銅色をした人形の鉱物。多種多様な亜人が暮らすヴォラキアでは、特殊な血を持つ種族も多数いる。その中に体を鉱物とする『鋼人』と呼ばれる種がいる。そして当代の九神将にはその一将も名を連ねているのだと。それが「ーーモグロ・ハガネ!」「よく、知ってる。詳しい。怖い」答えたのは2m近い上背の巨体。全身が金属でできており、関節部分など一部に緑色に輝く宝石、魔石に近い性質の石が組み込まれている。人ならぬものが作った常外の石人形というべき存在感。
「九神将の『陸』と『捌』の二人とは余の奪還ための刺客にしては手緩いな」ヴィンセントがそう評する。彼らの序列は壱から玖まで番号が振られており、数字が若いほど手練であると聞く。そういう意味では追手としてはマシな部類とは言えるが。
そしてグルービーが二振りの小さい鉈を振りかざしユリウスへ迫るとラインハルトがグルービーの手首を掴みもう片方は長い足で踏み潰す。そしてユリウスの放った剣撃がモグロの腕へ直撃する。
斬鉄の手刀
それでは早速行ってみましょう!
本日一人目のキャラは……こちら!ヴォラキア帝国・九神将、【グルービー・ガムレット】#rezero #リゼロ pic.twitter.com/SKX8dBchBt
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しかし硬い衝撃音だけで弾かれる。鋼人は見た目通りの強固さを誇る。そしてモグロが右腕を引いた瞬間に悪夢のように踊り強烈な前蹴りが放たれる。ユリウスがそれを躱し至近距離で応戦する。「お前、強い。私、驚き」モグロが感嘆を口にする余裕があった。モグロの狙いはユリウスではなく地面を掘ることにあった。地面に腕を刺した直後に巨体が高速で回転し、フェリスを掴んだまま土中へ潜り込んでいく。
「ラインハルト!」通じない剣撃をやめユリウスは呼ぶ。そして互いの相手を入れ替えラインハルトの蹴撃がモグロの胴体を捉える。代わりにユリウスの斬撃がグルービーの鉈を正面から打ち据えた。地中へ潜るはずの巨躯が宙へ浮いた。ラインハルトは超一流の剣士だが、持ち歩く『龍剣』ルグニカ王国最強の剣は剣自身が抜かれる相手を選ぶとされる希代の宝剣。故にラインハルトはそれを使わず、徒手空拳で戦うことも多い。その実力が今の蹴りに集約されていた。
グルービーは鉈を振り回すも我流で剣技ですらない。ユリウスは生じた隙に膝を貫こうとした時、苦痛と共に後ろへ下がる。「面白えだろ!魔手甲だ、魔石が仕込んであって、そっから魔法がぶっ放せる」聞き覚えのない武装の名を聞かされる。ユリウスは深手ではないが脇腹に負傷をした。ならば「こちらも手札を伏せたままでは礼を失する」すると準精霊が輝き出す。「精霊術師か!だが、その数…クソ器用じゃねえか!」クアが傷を塞ぎ、イアが騎士剣を赤熱させ、アロとイクで身体能力を底上げ。するとグルービーとユリウスの間を凄まじい勢いでモグロの腕が飛んでいく。
ユリウスはそちらを見るとラインハルトがフェリスを奪還しており、ラインハルトの片腕が手刀を振り切った姿勢だった。それがモグロの腕を断ったとすればその切れ味は想像を絶する。手刀で斬鉄が可能なのは世界中を見てもラインハルトくらいだろう。しかしグルービーがモグロの腕を蹴り上げそれをモグロがキャッチすると強引に肩と接続する。すると一秒で傷が癒着する。脳か心臓を潰されない限りいくらでも復元可能という鋼人の再生力。「ーーいい加減、退屈な演目には見飽きたな」すると皇帝が呟く。
水晶宮の真実
熱くなりつつあった林道の空気が一気に凍りつく。「グルービー、モグロ。ーー貴様ら余の身柄の奪還をなんと心得る」「か、閣下…そりゃあ」「ここが貴様らの児戯を披露する遊技場に見えるか?」それを聞いてグルービーとモグロは本気になるとわかった。すると「ユリウス」とラインハルトが名前を呼ぶ。その意図を読み取る。「任せて構わないのだね?」「ああ、それでいい。現状、僕たちの敗北条件は陛下の身柄を奪われることだがモグロ殿がいればそれを防ぐのは簡単じゃない。だから…」
そしてユリウスは準精霊を一人残すと言い皇帝とフェリスを連れて行く。そしてこの場はラインハルトに任せることに。そして逃げる中ユリウスは、誰がバルロイ殿を襲い、陛下の命を狙った刺客なのかと言う。すると「ゴズが指揮を執っているなら早まった真似はしておるまいよ。余が戻る前にマイクロトフたちを傷つければ貴様らの短慮を買わぬとも限らぬからな」と言う。
そしてさらにユリウスは水晶宮の鼓動について聞く。「水晶宮は存在するだけで莫大なマナを蓄えている。ならば、それ以上の説明の必要があるか、精霊使い?」「ーー。まさか水晶宮とは」「生きている」水晶宮の実態が攻防に優れた城塞だけでなく、莫大なマナを蓄え一種の精霊と化しているのだと聞けば驚く。
そしてユリウスの考えは「水晶宮の鼓動が読んで字の如くだとすれば、バルロイ殿が倒れ、ラインハルトの時間が盗まれた瞬間、特別な魔法が使われた可能性がある」「聡いな、だが、少しは動揺しろ。そこな半獣のほうが余の好みと言える」「余計なお世話!」そして水晶宮へ帰らなくてはと考えたユリウスだったが。
「ーーおや。もしかして、この距離で気付きました?」声は林道の向こうから何気ない風を装ってユリウスたちへと届けられた。落ち葉を踏み、ゆるりと一人の若者が歩いてやってくる。奇妙な風体をした青年。明るい青と派手な桃色の着衣。カララギ都市国家の民族衣装であるキモノを纏い足下には草で編まれたゾーリを履いている。その腰に刀剣。これもまたカララギ由来の武器『刀』を二振り下げていた。
ヴォラキアの青き雷光
「セシルス・セグムント殿と、そうお見受けします」「ああ、そうそう、そうなんですよ!いやぁやっぱりひと目でわかっちゃいますかね?異国の方にも知られてるなんてこれは僕も困ったなぁ、ははは」「セシルスって…」「あらら、そっちの美人さんはご存知ない?あ、『ヴォラキアの青き雷光』って呼び名ならどうです?吟遊詩人の歌にもなってるくらいなんですが」『青き雷光って…あの、帝国無双!?『選帝の儀』で敵対する軍を一人で全滅させたって化け物!?」
ヴォラキア皇帝を決める『選帝の儀』で当時皇帝候補でしかなかったヴィンセントに付き従い内乱状態にあった帝国を治める多大な貢献をした人物。ヴィンセントを狙った敵軍を壊滅させた一騎当千の働き。当時まだ十代半ばだった少年の所業は帝国だけでなく世界全土に知れ渡り『ヴォラキアの青き雷光』は世界最強の一角へと名を連ねた。単純な個人としてなら世界で最も多くの人間を殺した剣士と言えるだろう。
「というわけで閣下!この僕がお迎えに上がったからにはもう安心です。いつものように偉そうにふんぞり返って高みの見物なさってください!」「たわけ。何度言っても貴様の無礼な物言いは直らぬな。手の施しようのないうつけよ。だが、その不作法を笑い飛ばす価値がある男だがな」そしてユリウスが「イン、ネス。君たちの力を貸して欲しい」と言うと白と黒の輝きが宿る。
「およ?まともな精霊使いですか?北方にはわりといると聞きますが、ヴォラキアだと身近に邪道なのしかいませんからね。未知の技となれば相手にとって不足なし」そしてセシルスは刀を緩やかに抜く。何気ない足取りでユリウスの方へ距離を詰め、消えた。瞬間、雷速に達した踏み込みから知覚を超えた斬撃が放たれる。掲げた騎士剣がかろうじて初撃を受け止める。『ヴォラキアの青き雷光』はセシルスの人智を超えた速度にあることの証明。「ではどんどん参りましょう!まぐれでないなら僕を捕まえてみてください!」「すごいすごい!二つ目、三つ目、五つ六つ七つ!これだけ防げればまぐれはない!大当たりも大当たり!」ユリウスは剣力の限りで喰らい付く。
帝国最強と王国最強
「セシルスが遊んでいるのに救われているな。だが、そればかりでもない。やはりあの騎士は食わせ者よ」ヴィンセントの言葉の意味がわからなかったフェリス。「なんだかこう、いつもより雷感に欠けると言いますか…ひょっとして何かおかしな術でもかけました?」「非才なりの小細工をね。最善を尽くしてもこれだけ差があると思うも背筋が凍る思いだ」そして、セシルスは速度を上げれば良いと先ほどより早い速度で襲いかかる。
「あなたがこちらを侮るならそれに乗じる。刀をいただこう」ユリウスの騎士剣が虹色に輝く。「精霊剣アル・クラリスタ、一色不足だがこの輝きに断てぬものなし」「何それすごいかっこいい!」武器破壊に成功したユリウスにセシルスは歓声を上げる。するとセシルスは五番刀を折られるとはと言い、次は三番刀と履物を脱いでお相手するという。一番と二番は研ぎに出しており寝坊して咄嗟に掴んだのがこれだけだという。
そして再度セシルスとユリウスが向き合うとそこへモグロの巨躯が転がり込んでくる。さらにグルービーが地面を跳ねながらモグロにぶつかり勢いが止まる。そしてゆっくりとそこへラインハルトが姿を見せる。傷らしい傷がないことから、九神将2人を相手に圧倒していたのだとわかる姿だった。
するとセシルスが「何やら戦いが終わった雰囲気ですが、それこそちょっぴり早計なんでは?」と言いお手並み拝見といきましょうとラインハルトに襲いかかる。するとセシルスの姿が掻き消える。雷光の如き速度で放たれる斬撃がラインハルトの首へと迫り「…嘘ぉ」「すまない、ちょうど足下に落ちていたから使わせてもらうよ」手に握られていたのは、刃渡りが半分ほどになった刀。ユリウスが破壊したセシルスの五番刀だった。
そして目を輝かせセシルスの姿が再び消える。セシルスの残影を無数に生み出し、まるで百のセシルスと斬り合う錯覚を相手に味わわせる。剣聖はその場を一歩も動かないまま迫る刃を刀身のない刃で受け、流し、防ぎ続ける。「これに追いついてきますか!」「そろそろ、反撃させてもらおう」ラインハルトの足が弧を描いてセシルスの胴体を狙う。「腰の愛剣をもったいぶったのが命取りですよ!」『龍剣』を封じたままのラインハルトにセシルスの斬撃が走る。ラインハルトでも刀と足では勝負にならない。故に膝と腰を捻り、蹴り足の軌道を途中で変えた。
絶対的な壁
「な、ぁーー」胴体狙いの蹴りが鞭のようにしなり、セシルスの首を直撃する。「ーーー」直撃に意識を刈り取られセシルスが一瞬で目を剥いた。そのまま膝を折り倒れ込む。帝国最強の剣士、轟沈。その光景に同じ九神将の二人が絶句した。無論フェリスとユリウスにも驚きはある。ラインハルトの勝利を疑ったわけではないが、それでもここまで差があるものなのかと。
「慢心に次ぐ慢心…相手の力量も弁えぬまま挑み、結果がこれでは舞台世界の花形が聞いて呆れる。実力も出し切らずに負けるなど帝国主義の風上にも置けんな」とヴィンセントが言う。「して、そこな二人はなんとする?数に任せるも質の頼るも不十分とあって、なおも余の奪還に身命を費やすというなら是非もない。だが…」「言われなくてもわかってらぁ、クソ!モグロ!」「了解、確保した、グルービー」二人はセシルスを確保した。
そして林道の向こうを指差し「今回はてめえらに譲ってやるよ、けどな閣下に傷一つ付けてみやがれ。その付けた傷、以外の部分を切り刻んでクソの餌にしてやらぁ」そして、ユリウス達は林道から脱出する。
「ーー。ーー。ここは!?」「おおお、セシルス、目覚めた、無事」不意の覚醒を得てセシルスが体を起こす。すると首に痛みが走り直前の出来事が蘇った。「競り負けた?僕が!?あんな誰とも知れないお相手に!?」「誰とも知らねえってのは大問題だろうが。ありゃルグニカの『剣聖』だ」「ルグニカの剣聖って龍を斬ったと有名な!?まだ生きてたんですか!?」「それ四百年前、初代の話。あれ、その子孫。でも化け物」「ヴォラキアの九神将が三人揃ってあのチクショウ一人にボロ負けするたぁ」
セシルス二十年の人生で初めて遭遇した絶対的な壁。それを乗り越えた時こそ真にセシルスは自分が運命に寵愛されたと信じられる。「僕は閣下奪還の瞬間に備えてちょっと忘れ物を取ってきますよ。刀鍛冶からあれらを取り戻さなくては」「僕の愛刀、一番刀と二番刀の出番です。相手が剣聖さんとわかったならば、こちらも本気を出さねば無作法というもの」セシルスは笑い、極限の歓喜に瞳と声を微かに震わせていた。
皇帝の座を狙う反乱
ユリウス達は無事に林道を脱出していた。そしてヴィンセントはこの先の方針はどうすると言い「余の身柄を確保し、九神将をも退けた。このまま帝国に混乱をもたらすべく暗躍してみせるか?あるいは帝国を滅ぼせるかもしれんな」「うまく立ち回ればそれも可能なのかもしれませんが、それで最後に断頭台の露として消えるのは避けたいところです。悲劇的な幕引きは物語の中だけにしましょう」『マグリッツァの断頭台』の終章で父王と共謀した主人公は断頭台で処刑される。しかしその終わりまでも踏襲するつもりはない。
そしてユリウスの脇腹の傷をフェリスが癒やす。それを見てヴィンセントが「剣も使えぬ半獣がなぜ騎士の格好で連れ歩かれているのか疑問だったが、単なる飾り物でなかったことに驚いているのよ。三者そこそこに見所がある。となれば勝機も見えてくる」そしてユリウスが「今なら邪魔は入りません。既に陛下は事実関係を把握しておられるものと考えていますが」
「余の見識の及ぶ範囲ではあるがな。この世の全ては己の都合に合わせて動く、などと嘯くものもかつてはいたが…余はそこまで傲慢ではない。世界全土、手広く己の支配下にあるなどと自惚れてもおらん」「貴様ら王国の人間もこのヴォラキアの伝統的な訓戒はしっておろう?」「帝国主義…帝国民は精強たれ、とした教えですね」「その訓戒は帝国全土、皇帝すら例外ではない」
「もしかして誰かが皇帝の座を狙って反乱を起こそうとしているってこと?」「勘がいいな半獣。本来なら他国の刺客を疑うところだが、事が帝国で起きたなら話は違う。身内に首を狙われることのほうが余らにとって身近なことよ」「でも陛下を暗殺して席が空いても次に座る人が首謀者って丸わかりじゃない?」「フェリス、その考えは間違いだ。帝国ではそれが通る」「むしろ『選帝の儀』のことを思えば、皇帝の座こそがその象徴なんだ」
しかしバルロイの死は陛下の暗殺と無関係ではないかと話す。すると「バルロイが余を狙う不届きな輩に気付いたか、あるいは余の手駒を削る目的か。後者はやや手応えの浅いところを狙ったと考えざるを得ん」それどころか騒ぎは拡大し目的を遠ざけかねないものだった。
反乱の目的
そして、暗躍する敵は王国と帝国の戦争を望んでいるかもしれないという話に。「バルロイの死を貴様らの仕業と見せかけ、余の命をも奪えれば戦争は免れん。先の様子からして九神将までは抱き込まれておらぬようだが、不逞の輩も余がここまで気付くことはわかっておろうーー貴様らは身命を賭し余を守らねばならんな」「性格悪い笑い方…」ヴィンセントは上機嫌に口元を緩める。
その戦争を起こすための切っ掛けを作るためとなれば誰でもよかった。バルロイと交わした言葉は少なかったが彼が一角の武人であり、そうなるために血の滲むような鍛錬を積んできたことは想像に難しくない。九神将の地位まで辿り着いた人物の最期が想定外の奇襲。それはあまりにもーー「不自然、ではないか?」ユリウスは思い返し違和感に気付く。「大部屋に案内され、バルロイ殿が倒れる直前に君の時間が盗まれた」「ああ、間違いないよ。バルロイ殿を救えなかったのは僕の不明だ。ああした出来事は記憶にないから僕も正直困惑しているが」
「ただ、腑に落ちない。何故敵方は君を狙わなかった?」「それは僕が死ぬだけだと不十分だからじゃないのかい?戦争が狙いならヴィンセント陛下の死が不可欠で…」「それなら君とバルロイ殿の双方を殺し同時に戦力を削ぐ手もあった。後々の戦争を見据えているならますます君という存在は無視できない」「ーー敵にはラインハルトではなく、バルロイ殿しか狙えない理由があった」「なるほど、逆であったか」「貴様の推論に従えば、何故に不逞の輩は剣聖ではなく、バルロイめを狙った?」「九神将の一人バルロイ・テメグリフの生死が敵の計画の一部だからです」
帝都ルプガナは静かな混乱が続いていた。水晶宮から離れた豪邸の一室に密談を交わす人影がある。「そろそろ、勘のいい閣下にゃあ気づかれてる頃合いでしょうねえ」「やっぱり最初に城で仕留められなかったのが響いてきやしたか。場所が帝都、手勢は十分となれば勝機はこっちのもんのはずでしたが…」「ぶつくさと煩いぞテメグリフ…」そこにはバルロイ・テメグリフが健在な姿で立っていた。「元はと言えば、貴様が余計な脚色に拘った結果がこの様であろうが!いったい何が悲しくて自国で余所者にこうも振り回されなくてはならない」同じ部屋で話す人物が指を突きつける。「九神将が揃って敗走とは、帝国最強の名が泣く。『八つ腕』が健在であった頃ならばこのような失態はありえなかったはずだ」「そんな懐かしい名前だされやしてもねえ」
死の偽装
「都市防衛の任を帯びながら大罪司教の一人に街を落とされ自分も敗死。伝説的英雄の最期としちゃ何ともお粗末なもんです」「…皇帝に水晶宮に戻られることなどあってはならんぞ」「そこはご自慢の私兵たちに期待されてくださいや。ゴズ殿の指示で大概の兵たちは奴らに近づきもせんでしょう。その間に連中を仕留めればあっしらの勝ち。そこを抜かれても王国の騎士連中の口が塞げれば言い逃れはできやしょう」
事が片付いた時、帝国の玉座に誰が座っているのか、それは与り知らぬこと。皇帝への恨みはなく、取り立ててもらった恩もある。忠誠も薄れていない。ならば現在与する相手への恩義や信義が勝るかといえばそれもない。ただ尽くすべきはバルロイ自身の心中、己の中にある信念だ。それを貫いた結果なら、バルロイの知る皇帝は責めることなく頷くだろう。
「さあさこっちも仕掛けるといたしやしょう。相手の居所はわかる仕込み…あっしもそちらさんもここが勝負のかけどころですよ」「わかっている!」九神将ほどではないが、男の手勢は十分に脅威となり得る。だからこそバルロイは反乱の協力者にこの男を選んだのだ。野心とその権力がちょうど良いと。そうして槍を取りゆっくり歩き出す。「さあ、いきやしょうかカリヨン。あっしらの本懐、そのために」
場所は水晶宮より北へ数キロ、広大な山岳地帯の入口へと移る。管理人不在の小屋の中、顔を突き合わせている逃亡者たち。そしてユリウスが語った推測にラインハルトとフェリスは顔を見合わせる。「倒れたバルロイ殿が死を偽装していた…つまり敵方の協力者だったと?「九神将の死が事態を動かす切っ掛けなら、最も容易い方法は当事者を味方につけることだ、味方からの不意打ちや奇襲は帝国では日常茶飯事…裏を返せば警戒されている」「それなら最初から死に役の九神将を味方に入れておく?それって…」「十分可能な一手であろう。首尾よく貴様らが罪を被ればあとの火消しは他ならぬ九神将が引き受ける。余の首を落としておければ、なおよい」しかしーー「予定外が二つ。大部屋で皇帝を暗殺し損ねたことと…」「そこな剣聖がセシルスさえ退けるほどの力量であったことよな」「ここまでわかればあとは水晶宮へ陛下をお連れして敵の正体を暴ければいい。今回の一件、入念な計画が必要なはずだ。可能な人間は限られる」「で、あろうな。まずは見事と言っておこう」
虫籠族
「勝利条件がはっきりした以上、敵も死に物狂いでこちらを止めに来るということ。そしてその中にはあのバルロイ・テメグリフも含まれているはず」そして一行は無数の敵意に足を止めていた。「これだけの数に囲まれて気づけないとは不覚を取ったね」「十、二十…五十は下らないと見える」
猛然と小屋へ殺到するのは人と同じ五体を持ちしかし決定的に異なった部分がいくつも見られる異形。「此奴らは『虫籠族』。己の内におぞましき虫を飼い慣らした種族よ。有り様は醜悪だが、情弱ではないぞ」虫籠族とは多様な亜人族の入り乱れるヴォラキアにのみ存在する少数種族。幼少の頃から特殊な力を持つ『虫』を体内に入れその虫と生涯を共にする。生命の源であるオドをその虫と分かち合い半ば魂ごと合一することで肉体を共有。虫の力を引き出すことができるようになるという。
翅で宙を舞い、口から伸びる管で毒液を撃ち込み、変質した腕を鎌として引き裂く。しかしその全てが蹴散らされるのだから彼らにとっては悪夢という他ない。いずれの初見殺しでもラインハルトを汚せない。「馬鹿な…」その信じがたい事実を前に男が呻く。「我らの秘技をこうも容易く…どうやって!?」「すまない、直感なんだ」虫籠族の初めて見るような攻撃でも対応するラインハルトは『初見の加護』を持つ。初めて見る攻撃に対してそれを防ぐための直感的な反応が働くといったものらしい。早い話攻撃の予兆を感じ取る力。故に感じても反応できなければ無意味な加護だが、ラインハルトの場合は身体能力で追いつけないことを心配する必要がない。
それにさらに付け加えて『再見の加護』振るわれる大鎌が再度の角の一撃が刺客からの攻撃さえも避けられる。それは一度見た攻撃への反応速度が格段に向上する。初見の攻撃も初見と同じ攻撃も等しくラインハルトを傷つけられない。「たまったものではないな」その光景を見やり呟くヴィンセントが状況を端的に表している。そしてラインハルトが声をかけ、ユリウスたちを逃がす。途中ヴィンセントがユリウスを責める言葉にフェリスが反論すると「謁見の時といい余に抗弁するのを躊躇わぬ半獣よ、いやその実、半獣よりも半々獣とでもいうべきか、貴様、礼儀は母の胎に忘れてきたか?」「無礼を無礼とは思われない御方に良くしていただいておりましたので。お世辞にも王様にも向いてる方ではありませんでしたけど…皇帝陛下より器は大きかったですよ」
狙撃
それでは早速行ってみましょう!
本日一人目のキャラは……こちら!ヴォラキア帝国・九神将、【バルロイ・テメグリフ】#rezero #リゼロ pic.twitter.com/u3XiNy72Vo
— 『Re:ゼロから始める異世界生活』公式 (@Rezero_official) December 11, 2019
そして、このまま水晶宮へと向かおうと思った矢先。その甘い展望を打ち砕くようにヴィンセントの右腕が肩から吹き飛んでいた。「陛下!」「フェリス!林道へ戻るんだ!ここでは遮蔽物がない!」「え、え、え?」「陛下への攻撃手段が謎だ!周囲に人影もない!遠距離から狙われている!」
林道へ飛び込む一行に攻撃が通過。木々に着弾する。「狙撃!?」皇帝の腕を奪った一撃は遠距離からの魔法による狙撃だ。刺客は水晶宮への通り道に張り付きのこのこと姿を見せたこちらを狙い撃ちにした。そしてユリウスが刺客の相手をし、フェリスが皇帝の治療をすることに。すぐさまフェリスは治療を開始する。千切れた腕を短時間で繋ぎ、その先の生命回復の処置へ移る。致命傷でさえ死ぬ前であれば治療を間に合わせる桁違いの治癒術。それがフェリスのフェリックス・アーガイルの戦場。
ユリウスは準精霊達を呼び六色の光が周囲に舞い降りる。そして数発攻撃が掠めたところで撃ち込まれる攻撃の性質が無色の光弾ーー属性を帯びていない純粋なマナの塊であることを理解した。弾速は強弓を軽々と上回り、動く的に当てる技術はまさしく神業と評するに相応しい。自然と刺客の正体は九神将の一人と想像が及んだ。そして現時点で明確に皇帝を狙う理由のある人物は一人だけ「ーーバルロイ・テメグリフ」果たして自分の力でどこまで敵に追いすがれるか。ユリウスもまた王国の近衛騎士団では序列第三位。ラインハルトとマーコスに次ぐ実力とされるが、自身の認識ではその二人には遠く及ばない。実績も研鑽も積み上げている最中。ただーー「剣を握る、この腕が今は熱い」与えられた肩書に見合った働きをしてきたかという疑問もある。その答えの一端がこの戦いで証明される。
木々の庇護から飛び出す瞬間、不可視の光弾の襲来に肉体が反応する。セシルスとの攻防でも披露した切り札。陽属性の準精霊であるインによる肉体強化でユリウスの全神経を過剰に働かせる。炎を纏う騎士剣が振るわれ、衝撃が細い刀身を伝って光が弾けた。それらの連撃をかろうじて防ぎ射手の居所に神経を張り巡らせる。「ーーいい判断でさぁ。ただし、相手が同じ高さにいればの話でやしたねえ」そんな声がした瞬間、複数の方角から一斉に狙撃が襲いかかりその防御に全神経を集中する。「馬鹿な」防ぎきれなかった攻撃に左肩と右足の腿を抉られる。
主君と獅子王の癒し手
ユリウスは当初、敵は複数いると思っていた。そうでなければあらゆる方角から飛んでくる攻撃の答えが出ない。だが「この精度の狙撃が可能な人間が複数いるとは考えにくい」つまりバルロイの攻撃には何らかのカラクリがある。狙いの精度や息もつかせぬ連射、そして射手の位置を特定させない狙撃術。
刺客の集団をラインハルトが足止めし、狙撃の射手をユリウスが迎撃に向かった。林中の巨木の陰に隠れながらフェリスは重症のヴィンセントの治療に全力を注ぐ。既に腕の接合は完了しているが消耗した体力と失血はフェリスの腕をもってしても補えない。「お願いだから死なないでよ!こんなことで戦争なんて冗談じゃない!」「…耳元で囀るな。凡骨ならぬ、半々獣」「目が覚めていきなり憎まれ口なんてフェリちゃんビックリ」
「貴様も口惜しかろうな。王族が健在で龍との盟約さえ盤石であればここで余を救う必要もなかったであろうに」「貴様の治癒術は大したものよ。余も皮肉なしに認めてやろう。その高めた腕を忠義を捧げた相手へ振るえず、仮想的に施さなくてはならぬとは…お前の、星の巡りの悪さにはもはや言葉もないがな」「ーーっ馬鹿にしないで!」
「口惜しい?助けたくない?あなたに私の何がわかるの…」「だけど殿下は…そんな風にお考えになる方じゃなかった。自分がダメだったのに他の人が助かる。それをそんな不幸を許せないような狭量じゃなかった…」目を瞑ればフェリスの脳裏にはいくらでも一人の青年の笑顔が浮かび上がる。ずっと長く彼の幸せを彼と自分の主人との幸福を願ってきた。それが叶わなくて、そのために自分が役立てなくて、死にたいと思ったこともあった。だけどそれを許してくれる人ではないと魂がひび割れるほど知っていたから。だからフェリスはここで悪い相手を治療する手を緩めない。「馬鹿にするなヴォラキア皇帝。私は私の主君と獅子王の癒し手。あの方々の優しさが人を選ばないのにどうしてその手である私が救う相手を選べるの。たとえ王族の方々がご健在でも私は私の求めに応じる。そう決めてる」
そして「この狙撃はバルロイ・テメグリフに違いあるまいよ」「え?」感情を吐き出していたフェリスに沈黙していたヴィンセントが呟く。バルロイは九神将。当然ヴィンセントはその戦い方は知っている。「あれの特性上、カラクリが解けなくば、釣瓶撃ちにされよう。仮に仕掛けが暴けたとして一人では届かぬ。二人いれば、わからんがな」
魔弾の射手
「二人いれば…でもラインハルトは」「その頭の耳は飾りか、半々獣」「余は二人いればといったのだ。剣聖の存在は問題ではない」フェリスの持つ武器は主人から賜った家紋入りの短剣が一振り。しかしそれを使いこなす技量も騎士としての才能もない。「無力を嘆くならそれもよい。なればただことの成行きを静観するがいい」「静観ではなく傍観か?貴様は得意なのであろう。力不足で忠義の矛先を亡くしたように、此度も同じようにせよ」
「ーーっ!あったまきた!わかったわかりました!やればいいんでしょうが、もう!」「では聞くがいい半々獣。ーーただ、その命を懸けるだけでいい」
真上から迫る急角度の光弾が流麗な剣捌きの前に打ち払われる。正面から剣技を競えば、バルロイでもユリウスに勝つのは難しい。しかし戦いとは相手に得意なことをさせず自分が得意なことをやり続ければ勝てるのが習わしだ。故に徹底して自分の得意な遠距離からの狙撃に集中する。ーーそれも相棒の飛竜の背に乗り常に超高速で移動する狙撃術を駆使して。「卑怯千万。奇襲上等。悪く思わんでくださいや騎士殿」
翼をはやし空を行く飛竜を乗りこなす竜操士。唯一飛竜を操るヴォラキア帝国でも決して数の多くない希少な才能を要する戦士をそう呼ぶ。竜操士は転落すれば死を免れない高度を手綱なしで飛ぶことが求められる。類稀なる平衡感覚と死さえ超越する相棒の飛竜への信頼。それがあって初めて飛行が成立する。そしてバルロイはそこへ自分ならではの一工夫を加えた。
それが「陽魔法で光の屈折を変えて風魔法で気配を散らす。さて、相棒カリヨンが空のどこを舞うか検討がつきやすかい?」自分と飛竜を魔法で風景に同化させ、姿を隠して飛び回る狙撃の射手。乗り手のバルロイも音が聞こえなくなる欠点もあるが、発見される恐れがない。見えず、探せず、躱せず。それを実現する竜操士としての才と狙撃に特化した魔法使いとしての稀有な才の二つがバルロイを『魔弾の射手』と言わしめ九神将の一人へと名を連ねさせた。その名声も武名も全て投げ捨て、バルロイは本気で皇帝の意に背く。それも全てはバルロイに生き方を教え、飛竜と絆を結ばせた恩人へ報いるため。ーー手柄を約束して王国へ向かい死体すら帰らなかった義兄弟への弔いだ。
囮と治癒魔法
「だってのに、思いがけず前哨戦で長引きやすねえ…」狙撃をことごとく防がれ状況の停滞に眉を寄せる。大気中のマナを用いる精霊術師にはマナが底をつくという限界がこない。その分一度に使えるマナの最大量が契約する精霊に依存する弱点はあるのだが。
ちらと視線を向ければユリウスがいかせまいと背中に庇う林が見える。そこには初撃を浴びせた皇帝と猫耳の少女騎士。そしてバルロイの本命の敵がいる。剣聖ラインハルト・ヴァン・アストレア。「セシルスが戻ってきた時は横からかっさらわれるかと焦りやしたがねえ」ヴォラキア最強の動向はこの計画における最大の不安要素だった。どれだけ手段を選ばぬ応報でもせめて手を下すのは自分でなくてはならない。そういう意味では、よくぞセシルスを退けてくれたと拍手喝采したいぐらいだ。
その上で復讐を成し遂げる。全ては死んだ義兄弟の弔いのために。すると眼下に生じた変化に目を瞬かせる。それは林を飛び出し平原のユリウスへ駆け寄っていく猫耳の少女。「これも戦場の作法…状況を動かす役目を買ってもらいやしょう!」「ーー!?」駆け寄る少女がユリウスの背中に何事か叫ぶ。風に巻かれバルロイの耳には届かない。ただそれを聞く騎士の顔色が変わったのは見えた。
「カリヨン!」愛竜に命じて雲上から地上へ向けて一気に急降下する。風を抜き去り、音を置き去りに青空を切り裂きユリウスとフェリス、両者を直線上に捉えられる位置へ飛び込み光弾を手前の少女へ撃ち込んだ。瞬間、ばっと平原に血の華が咲き、少女の細い体が為す術なく吹っ飛ぶ。光弾は背中から右胸を貫通し取り返しのつかないほど破壊する。「ご容赦を」女子供を殺すことに罪悪感などない。それでも目的の途上の障害として命を奪う。その所業の醜態さには自覚がある。だから目を逸らさない。ーーそのバルロイの狙撃手としての信条が仇になった。「ーーな!?」
刹那。胸を貫かれ即死するはずの少女の体が凄まじい光に包まれ視界を焼いた。爆発的な青白い輝き。それが人知を超えた治癒魔法の光だととっさにバルロイは気付けない。ただ本能の警鐘に従い即座に急上昇を愛竜に命じる。「カリヨン!?」そのはずが、掴まるはずの背中の突起が指を掠め、身を撚る愛竜の背からバルロイが振り落とされた。
虹の障壁
空を飛竜の飛び込もうとした蒼穹を虹色の輝きが渦を巻くように展開する。翼をはためかせ、虹から逃れようとするカリヨンだが、音を置き去りにする飛竜であろうと極光の速度には勝れない。そのまま虹の輝きに包まれ、衝撃に揉まれて天墜する。「カリヨン…!」ゆっくりと翼を折られて落ちる愛竜。その姿に手を伸ばす。しかし届きはしない。ただ落ちていく愛竜を見続けるしかなかった。背中から大地へ叩きつけられる瞬間まで。
「フェリちゃんが囮になるから、その隙に相手を見つけて囲って!」防戦一方の中、林から飛び出したフェリスの叫びにユリウスは驚愕した。とっさに言い返せなかったのは、言葉を発したフェリスの覚悟が極まっていたからか、あるいはフェリスを貫く敵の攻撃の方が速かったからかもしれない。フェリスが自ら囮役を買ってでたなら、生き残る三段があってのことと信じている。
「ーー見えた!」フェリスが撃たれた瞬間、その背後の空間にわずかな揺らぎを見た。その微かな揺らぎからユリウスはバルロイの陽と風魔法の組み合わせで位置を隠していたのだと理解する。そしていることさえ確実となれば「ーーアル・クラウゼリア!!」撃たれた友人の傷と狙撃の瞬間の空間の揺らぎの位置と角度から、騎士剣を空へ向け準精霊たちの力を借りて極大魔法を行使する。
極光は渦を巻くように蒼穹へ伸び上がり、敵を囲い込む。それは六属性いずれに属する魔法であっても強固に阻む虹の障壁。当然物理的な防護力も備えており、正面からぶつかれば甚大な被害は免れない。その結果が緑色の飛竜が落ちる姿だった。「象るは虹の障壁。ーーその果ては誰にも見通せない」
「やられ、ちまいやしたか…」そこへ足をひきずり息も絶え絶えにやってくる人影。飛竜が落ちるよりひと足早く平原に振り落とされていたバルロイ。この飛竜は虹に掴まる前に相棒を振り落とし守ったのだ。そのことをバルロイもわかっている。だから彼は立ち尽くすユリウスを素通りし、愛竜の下へ。「ありがとさん、カリヨン。マイルズ兄貴を待たせといてくんなぃ」動かなくなった鼻先を撫でて、柔らかな微笑みで見送る。そしてゆっくりと立ち上がった男は長く息を吐いた。「わざわざお待ちいただいて申し訳ありやせんね。そんな義理もないでしょうに」
バルロイの目的
「愛竜と主人との別れだ、私も大切な地竜を所有する身。その大切な時間を 邪魔立てするほど無粋にはなりたくない」「かかっ優雅なお考えで。けど今は素直に感謝しときやしょうか。おかげでカリヨンを見送ってやれた。ですから」バルロイはそこで振り返り真っ直ぐユリウスを見る。髪が乱れ、額からは血を流した姿。ユリウスの魔法を受けなかったとはいえ、結構な高所から墜落した以上、相応の影響が体に残っている。
「投降して治療を受けろ、なんて言わんでくださいよ、こんな状況だ。帝国にあっしの体を診る治癒術師はいやせん。それに断固拒否しやす」「それは何故…」「そいつは簡単な話でさぁ。ここが帝国であっしが九神将の一人であんたが敵だからですよ」既に勝敗は決した。そう考えるユリウスの前でバルロイは強く言い切った。そして腕の中、彼の得物である槍が凄まじい勢いで旋回し構えられる。
「だから命懸けで抗おうと?」「ただあっしは諦めが悪い。せめてこの槍を目的に届かせたい。それだけ」「目的ーー」「ええ、目的。剣聖の喉元へ」そしてユリウスも騎士剣を構える。「あなたの技量には私も一人の剣士として敬意を表する。だが、ラインハルトは私の友人だ。王国のためにも友のためにもあなたの本懐を遂げさせることはできない」「結構!それならあとはお互いの技で決着するのみ!」
「ルグニカ王国近衛騎士団所属、ユリウス・ユークリウス」「ヴォラキア帝国『九神将』が玖、バルロイ・テメグリフ」戦士の習わしに従い、互いに名乗りあったところで戦いが始まる。先手はバルロイが目にも留まらぬ速度で胸を抉りにくる。それを騎士剣で打ち払う。陽魔法の反射防御はなおも健在。
次々と槍を繰り出す。それを打ち払い、バルロイを追ってユリウスも地を蹴る。平原を駆け抜けながら鋼と鋼が打ち付け合う。互いの間合いが測り終えた所で勝負が動く。槍の先端から無色の魔弾が放たれる。音も予兆もなく胸を射抜かんとしてくる。それを殺気と視線で感じ取り、ユリウスの反射防御が雷速に迫る勢いで動く。かろうじて剣先を掠め肩が抉られる。致命的な被害は避けられたが、直後胸骨を抉られる衝撃が内蔵を襲う。二つ目の魔弾が突き刺さる。さらにそこへ「ーーお命、頂戴」踏み込むバルロイが必殺の上に死を重ねる三つ目の攻撃を繰り出す。
復讐
最後に繰り出されるのは神速の槍撃。しかし、瞬間バルロイの頬が強張る。それは、心臓を潰したはずの胸部へユリウスが施していた地属性の防護による事前対策。しかし防護を貫く一刺しを放つ。それが勝敗を決するとーー「アル・クラリスタ」ユリウスが詠唱する。先に届くはずの槍の先端が虹色に輝く騎士剣によって消失する。
鋼と鋼の衝突などそこにはなく、斬鉄という言葉すら生温い切断が結果として実現した。「こいつぁ、予想外」閃く虹色の輝きがバルロイの左胸を貫き、極光がその魂を焼き焦がす。「よもや本命に届く前に躓くたぁ…あっしも焼きが回りやしたねえ」槍を落とし一歩下がったバルロイの胸から騎士剣が抜ける。傷口からは血も流れない。極光は傷を、内蔵を、魂を焼いている。
ふらつく足で息絶えた愛竜の下へ辿り着く。何とか傍らに膝をつくとその巨体に寄り掛かる。「…バルロイ殿。何故このような企てに?」「真っ直ぐなお人だ。…あんたにはわからんかもしれやせんねえ」「帝国を割り、王国との大戦を招きかねない行いだった。確かに私にはわからない。あなたが剣聖にラインハルトに拘った理由も」「そっちは単純明快。わかりやすく復讐でさぁ」ユリウスが驚く。まるで剣聖が他人の恨みを買うことなど考えたこともなかったばかりに。
ラインハルトに何か言うことはあるか聞くとバルロイは「敗者は敗者らしく半ばで果てやすよ。あっしの方こそ猫耳の美人さんにゃぁ悪い、ことを…」しかし「お生憎様!フェリちゃんそう簡単に死んだりしないから」「…は」白い制服を真っ赤な血で汚してしかし傷を感じさせない足取りでフェリスが現れる。ヴォラキア帝国は人外魔境と他国に陰口を叩かれていると聞くが、ルグニカ王国もよっぽど常軌を逸した存在ばかりではないか。
「閣下にお伝えくだせえ…王国とケンカするなら滅ぼすまでやんなさいって」「それを伝えるのは複雑な心持ちだが…承知した」人生最後の冗談のつもりが、律儀な応答に喉が震える。「女子供殺さずに済んで…はぁ、安心した」安堵の吐息が漏れて自分で思った以上に小心者だったと知る。そしてそんな自分に苦笑した瞼の裏を遠く、見知った顔が過ぎった。それが恩人であり育ての親のような義兄弟の顔であることに気付いて俯く。
帰還
「すいやせんね、マイルズ兄ぃ。あっしもどうやらここまでのようでさぁ」「ーーー」小さく聞こえないほど微かな声で呟いてバルロイの息が止まった。彼の死から始まった物語は彼の本当の死を辿ることで佳境を迎える。少なくとも目下、完全なる敵対者という意味での難敵は彼以外にはいないはずだ。
そして「友人の倒れる姿なんて見たくもない。君が無事で本当によかった」「面と向かってまぁ…悪い気はしないけどユリウスらしいよネ、ホント」そしてユリウスはバルロイに向き直り「ーー機会があれば、あなたとももっと言葉を交わしたかった」それから背後の林道を振り返るとその視線の先には無傷で手を振るラインハルトと肩を借りるヴィンセントがいた。
帝都ルプガナを堂々と歩き、水晶宮へと真っ直ぐに帰還する。もはや造反は失敗に終わったと判断したヴィンセントの勝利宣言にも等しい決断だった。最初、大通りに姿を見せた皇帝の姿に行き交う帝都の人々は呆気にとられた。なにせ悠然と立つ皇帝の姿は血に塗れ、常日頃から白い頬は血の気が失せてなお青白い。しかし帝国民はすぐに我に返ると悠々と歩く皇帝の姿に跪く。そして誰もが大通りに駆け付け皇帝の帰還に頭を垂れた。
そして城門を潜り、おののく帝国兵たちを押しのけ水晶宮へと乗り込んでいく。「ーー閣下が戻られたというのは本当か!」広間の二階に姿を見せたのは黄金の鎧を纏った強面。「閣下、よくぞご無事で!臣下一同!兵卒一同!心より案じておりました!!」「喧しいぞ凡夫。貴様が口を開けば帝国の恥を晒す。故に黙っておれとそう余が命じたことを忘れたか?余の寛大さも今日ばかりは底をついたぞ」「は!ですが閣下!城内にはまだ混乱も残っており…」「ーー二度目だ。口を閉じろゴズ・ラルフォン」
「此度の一件、貴様らに預けていては帝国の威信が地に落ちる。故に余が断ずる。九神将バルロイの死と余の身に起きたこと、それら全ては王国騎士へ罪を着せる痴れ者の謀よ。バルロイはその恥知らずに与し余の命を狙った。既に沙汰は下したがな」「…っ!まさか、バルロイがそのような」「ーー残念ではありますが、閣下の仰るとおりのようですよ」そこに現れたのは水晶宮の外からやってきた老齢の男性だった。
帝国宰相ベルステツ
幾人もの帝国兵を引き連れる男性の登場にヴィンセントは腕を組む。「ベルステツか。帝国宰相が自ら兵を率いているなど珍しいこともあるものだ」「閣下の御身がかどわかされたと聞けば、老体に鞭打つのは当然のことですよ」名前と肩書が聞こえた以上、この男性は帝国宰相ベルステツ・フォンダルフォンと考えて間違いない。武官の頂点が九神将であれば、宰相は文官の頂点とも言えよう。その役職を一人で背負う彼こそがヴォラキア帝国で皇帝に次ぐ地位に立つ人物。何故か不思議と謁見の間では姿を見なかったがーー
「まずは閣下、ご無事でのお戻り心より喜び申し上げます。王国騎士の方々も御尽力いただき、よくぞ閣下を御守りくださいました。深く感謝を」「迂遠な物言いをするな老骨。今の言の真意を語るがいい」そして一人の兵士を前に出させ、腕の中の木箱を差し出す。その箱の中にあったのは中年の男の頭部だった。
首を斬られ無念の内に果てた壮絶な死相。「奸臣グラムダート・ホルストイ上級伯の首にございます。此度の一件、全てはホルストイ伯の謀だったと。当人が自白の書状を残し、邸宅にて自刃しておりました」「手回しの早いことよな、ベルステツ」「城でテメグリフ一将が死亡したとの報告後、ずいぶんと慌ただしく動いていた節がありまして。そこへホルストイ伯の邸宅に翼竜が降りたと話があれば、彼のものから事情を聞こうと考えるのは自然なことかと。独断で動いた件、お詫びいたしますが」「それも含めて、手回しが早いと称賛したのよ」
そしてベルステツの差し出す書状をヴィンセントが受け取り内容に目を走らせる。「此度の一件、全てこの首の企てとな」「閣下を弑逆し、その罪を王国騎士へ着せ、敵討ちを口実に玉座を簒奪せんとしたようです。野心の大きさは帝国流ではありますが、いささか浅慮、不足とはな」「謀略の不成立とは、そう評価されざるを得ないでしょう」
ユリウスは事件の終結を感じ取り、こちらの冤罪は晴れ、戦争も免れたはず。しかしこの肌のひりつく感覚が増していくのは何故なのか。その原因である覇気はヴィンセントの背中から放たれていた。「時に、ベルステツ」「は。なんでございましょう」「命じる。ーー動くな」微笑で応じるベルステツに、皇帝は静かに虚空に浮かぶ柄を右手で掴んだ。直後、大気の鞘から引き抜かれるのは、柄から刀身まで真紅に染まった宝剣だ。
陽剣
それが何の衒いもなくあろうことか、ベルステツの首へと叩きつけられた。宝剣の剣速と切れ味はやすやすと老人の首を跳ね飛ばす勢いがある。しかし、振り切られた真紅の剣は血を知らず、斬られたはずのベルステツも笑みを絶やさぬままだ。その笑みのまま、ベルステツは自分の首へそっと手で触れて「ーー閣下らしくもない、お戯れを」
「戯れに抜けるほど『陽剣』は軽いものではない。余の斬りたいものを斬り、焼きたいものを焦がす。ーー見よ」宝剣を手にした皇帝の言葉に不意の紅蓮が立ち上がる。それは兵士の腕の中、晒されていた首の箱を焼き尽くす炎だ。とっさのことに兵士は箱を落とすが、それは床の絨毯を焦がさず、箱も燃やさず、首だけを焼き尽くす。
「皇帝の座に相応しいものにのみ、陽剣は輝く。やはり美しく、恐ろしい」「その紅蓮にて、持ち主を試す傲慢な剣よ。だが使い道はある」そしてヴィンセントは目を細め、宝剣をくるりと回し、持ち手をベルステツへ突き出す。「試してみるか?老骨に玉座を得るだけの資格があるか」「…お戯れを。そのような大望、この老いた身には過ぎたるもの」陽剣に触れることなく宰相は辞退する。そしてベルステツは灰となった首謀者を回収し、その場から立ち去る。
「な、なんなの今の緊張感…味方同士なんじゃにゃいの?」「城中ともなれば様々な事情が入り込む。私達のような部外者には窺い知れない事情もある。ラインハルト、君はよく動かなかったね」「陛下の剣に殺意はあったけど、本気ではなかったように見えたからね」「…それ、どうやって見分けるの?」フェリスが首をかしげる。
あの場で殺意が結実しないとわかっていたのは、当事者であるヴィンセントと微動だにしなかったベルステツ。そしてラインハルトくらいだろう。「ふん。ーー狸の尾までは掴み損ねたか」立ち去る宰相が見えなくなると忌々しげに呟く。そして何気なく彼が陽剣を手放すと宙に呑まれるように姿を消した。ユリウスはその宝剣に興味を惹かれるところだが、関心はヴィンセントの呟きのほうだった。自刃した上級伯と皇帝と宰相のやり取り。それを踏まえれば黒幕はーー「陛下、無礼を承知でお伺いしたいことが…」「ーーはいはいはいはい!おまたせしました、真打登場!皇帝閣下の敵討ちにこのセシルス・セグムント、堂々水晶宮へ戻りましてございます!」とユリウスが一歩足を進めた瞬間に声は雷速に塗りつぶされた。
皇帝の掌の上
そうして大広間へセシルスが飛び込んできた。そしてユリウス達を見つける。「血塗れの閣下を担いで城に向かったと聞きましてね。許しませんよ、王国騎士の皆々様!よくも閣下を!」「ーーこちらを向け、うつけ」「あれ!?閣下、こちらの方々の卑劣な罠にかかって無念の死を遂げ、取り戻そうと必死な僕の前に生首となって登場して覚醒の切っ掛けになるはずでは!?」「貴様の戯けた道化ぶりもここまでくればいっそ見事と言わざるを得んな」
「いえいえいえ、閣下が生きてらしたなら僥倖中の僥倖!ここは生首出演は見送るとして、せっかくですから間近で僕の活躍をご覧あれ!今すぐ王国の方々を根切りに…」「んがっ!?」とゴズ・ラルフォンにセシルスの襟首が掴まれる。「その意気込みは買うが、既に事態は閣下が収拾さなされた。つまり終わりだ」「へ?」
そしてセシルスはラインハルトを見て「あの、それじゃ僕とあなたの決着は?」「またの機会に、というのはどうかな。僕もこの状態だしね」と自分の首輪を弾いて答える。「じゃあ僕、ただやられただけじゃないですかーっ!!」そんな帝国最強の叫び声が特別外交の締め括りとなった。
「結局、今回の件ってどういうことになるんです?」帝都ルプガナを離れ、国境にある関所へ向かいながら、帰路の竜車の中でフェリスが言う。問いかけが向くのは、事件の間、帝国兵に身柄を高速されていたマイクロトフとボルドー。二人も無事に解放されユリウス達と共に帰路についていた。「ふぅむ。釈然としないフェリス殿の気持ちもわかりますが、皇帝陛下の仰った通りでしょう。此度の一件は全て帝国内部の問題。故に我々には相応の便宜を持って報いると」「それが帝国との不可侵条約ってことですか?」マイクロトフが顎を引く。
事態の収拾後、改めて謁見の間でヴィンセントはあっさりとこちらの不可侵条約に同意した。「なーんか納得いかない」そしてユリウスも心残りがあった。「マイクロトフ様、ーー今回の一件、全ては皇帝陛下の掌の上だったのでは?」「ヴィンセント陛下の掌って君はどこからどこまでを?」「全部だよ。バルロイ殿の裏切りと今回の反乱の首魁として自刃したホルストイ上級伯。彼らの謀反そのものが陛下の掌の上だったのではとね」「そ、そんあのありえないでしょ。だって皇帝はフェリちゃんが手当てしなかったら絶対死んじゃってたんだよ?」
毒針
「ーーヴィンセント・ヴォラキア皇帝は非情に合理的な考えをされる御方ですよ」マイクロトフが答える。「ではマイクロトフ様も皇帝陛下のお考えを察していたと」「皇帝は王国と帝国との戦争を望んでいない。だから今回の王国の要求する不可侵条約は好都合だった。しかし簡単に承諾できないわけがあった」神龍との盟約が途切れ、冷戦状態にあった関係を思えば帝国が攻め入らない理由はなくなる。少なくとも帝国の国民感情を思えば、皇帝は不可侵条約を受けられない。帝国側が王国にあえて譲歩する。そんな理由が生じない限りは。
「そのために王国の使節団を巻き込んで反乱するように仕向けたってこと?」「おそらく反乱を起こした側に状況を制御し、誘導するための人員が送り込まれていたのでは?」「いったい誰がそんなことを?ホルストイ上級伯なのでしょうか?」ヴィンセントの命令に従い、この反乱を誘発し、さらには計画の主導権を握ることができる立場にある人物。その心当たりをユリウスは知っている。
その答えはーー「バルロイ・テメグリフ」おそらくは彼こそが皇帝が反乱を起こした相手に仕込んだ毒針だったのだ。それを聞いてフェリスとラインハルトが絶句する。思えばヴィンセントの腕を飛ばした一撃。あれは何故腕だったのか。バルロイほどの腕なら無防備な獲物の頭を狙うなど容易かったはずだ。「フェリスの治癒術も織り込み済み…だがバルロイ殿の最後の気迫は本物だった」それにバルロイはラインハルトへの復讐が動機だと言っていた。あの最後の最後に残した言葉に嘘はなかったと思う。バルロイがラインハルトを殺すためにああした状況を用意したことは間違いない。
だが、ヴィンセントなら、バルロイの復讐心すらも見抜いて自分の作り上げた盤面の説得力に利用したのではないかと、そうとすら思えて。王国からの使節団として推薦されたのがユリウス達三人。ラインハルトだけは帝国からの指名だが、この経験は必ずや将来に活かされる。ひょっとするとヴィンセントがラインハルトを使節団へ動向させるよう求めたのも九神将と相対させる目的がーー「まさか」ユリウスはそこまで考えたところである可能性に気付いた。帝国外交の裏側に張り巡らされた無数の思惑。そこにヴィンセントの関与があったことはまず間違いないが、王国側の関与はどうなっていたのか。あるいはマイクロトフも此度のことを前もって知っていたのか。
啜った力
「さすがにそれは買い被りすぎですよ。ユリウス殿」とマイクロトフに見透かされ、もはやその洞察力には驚くことすらできない。「僕たちの知らないところで思惑は錯綜していたようだけど、まずはこうして全員が無事に帰れることを喜ぼうか」「そうそうやっとラインハルトの首輪も外せたんだもんネ。やっぱり首輪ないと気分が違うでしょ?」「そうだね、拘束される窮屈感から解放されたよ」「力が窮屈にされてもヴォラキア最強に勝つのがラインハルトだよネ〜」
「ただ、それでもーー」王国が未来へ踏み出す時、この経験を得た自分に何ができるだろうか。ユリウスは静かに思い悩む。その悩みの答えとして、遠からず彼は一人の少女と出逢い、道へと踏み出す。ーールグニカ次代の王を決める『王戦』その始まりは数カ月後のすぐそこまで迫ってきていた。
同日、同時刻。帝都ルプガナ、水晶宮にて。「ーー凡夫共、大儀であった」赤い絨毯に跪くのは九神将だ。揃って頭を垂れる相手はこの世界にただ一人。ヴィンセント・ヴォラキアである。そして右手の先で揺れるのは服従の首輪と呼ばれる拘束具。世界中でありふれたミーティアであるが、この首輪は世界で唯一の付加価値がある、それは剣聖の首に嵌められていたということ。この首輪は世界で唯一剣聖の有する絶大な力の一端を啜ったということ。
「モグロ・ハガネ」一人の名前を呼び顔と思しき部分を動かしたのは鋼人。その鋼人の反応にヴィンセントは首を傾ける。そして視線を広間の天井、否、水晶宮そのものへと向けて。「想定外のこともあったが、剣聖の蜜は啜れたはずだな。どれほど満たされた?」『ーー二発。無理、すれば、三発』とヴィンセントの問いかけに答える声が部屋全体から聞こえる。それはまるで水晶宮そのものが発音したように重々しい声音だった。
「三発だぁ…?冗談じゃねえぞクソ。あの化け物どんな器してやがる」「規格外なのは承知の上だ。こちらもそのおかげで切り札を補充できた。とはいえ…」「私、思う。あの男、危険。始末する。優先すべき」「いやはや、それはどうでしょうかと、当方は考える次第」そこへ待ったをかけたのは頭のてっぺんから爪先までを全身白一色で固めた長身の男。この場で唯一ルグニカ王国の使節団と顔を合わせなかった人物。否、それは正解ではない。
全貌を知る人物
顔を合わせてはいたのだ。ただ、この顔ではなかっただけで。「どういう意味だチシャ・ゴールド。我々が揃って驚異を測り違えるとでも?だとしたらしの誹りは貴公の方こそ受けるべきであろう」「平時は閣下の影武者として活動していながら、肝心なときに閣下の身代わりになれんとはとんだ大失態…閣下にもしものことがあれば」「ーーありえん話ですなぁ。閣下の、そのご慧眼を信頼すればこそ」チシャとゴズが睨み合いになる。
「くだらぬことで言い合うな。余の判断だ」「ですが当方も肝を冷やしましたよ、よもや、一度は腕を飛ばすことまで織り込み済みだったとは。それを知っていれば」「余と影武者を入れ替えようとはせなんだか?」「でしょうなぁ。当方も腕を飛ばされるのは御免被りますが」
「必要な代償だ、あれを払わねば王国の安堵は買えん。治療をしている半々獣に気取られかねん、余と貴様との入れ替わりをな」「あれには頭と心臓以外を狙えと言いつけた。それで十分であろうが」「御意に」「閣下、聞きてえんだがチシャの野郎にも黙ってたってことは全貌を知ってたのは閣下だけのか?俺やモグロもクソ半端にしか聞いちゃいなかったが…」「貴様やモグロが二割、チシャめが五割。そこで静かなゴズが一割。喧しく躾のなっていないあれにはゼロだ」
この場にすら呼ばれていないセシルスは完全に話の外側に置かれていたわけだ。ただしそれは皇帝が彼を信用していないということを意味しない。「勝つのがあいつの役目だからってんなら…」「一度負けた、次はない。本来なら二度目の機会もないはずだがな」それを聞いてグルービーとモグロも察した。セシルスの敗北すら皇帝の思惑通りなのだと。その経験がさらにセシルスを強くする。
ヴィンセント自身が命を懸ける理由は「ーーただ確実性を上げる為に」そのために自分の命さえも手札の一枚として容赦なく切れる。グルービーは全貌を知っていたものがいたか聞いたが、それを皇帝ははぐらかした。なぜならーー「大儀であった、バルロイ・テメグリフ」全ての咎を一人で背負い自らの信念に殉じた戦士に皇帝が誰にも聞こえぬ称賛を。それと同時にバルロイの悲願が成就しなかったことを少しだけ惜しくも思う。傅く九神将たちをおののくように、全てが自分の思い通りであればどれほどよいか。そんなことを考えてふとヴィンセントは誰にもわからぬ笑みを浮かべた。「この世界はお前にとって都合の良いようにできている、か」それはかつて、ヴィンセントの知る『世界』の主人の魔法の言葉だった。
登場人物紹介
●ラインハルト
服従の首輪をつけられ力が抑えられていたらしいが、それでもセシルスが本気を出していないとはいえ、あっという間に意識を刈り取った。
●ユリウス
近衛騎士団での実力は3位。バルロイを殺す。
●フェリス
ルグニカ一治癒術師の称号『青』を持つ。致命傷を負っても復活できるほどの治癒魔法の使い手。3章でも同様に竜車での魔女教の自爆の爆発から生還している。
●マーコス・ギルダーク
近衛騎士団団長で実力2位。別の外伝では14歳のロズワール(中身400歳)には2回も勝っている。今回の使節団への同行をユリウスたちに命じた。
●マイクロトフ・マクマホン
賢人会の議長で、40年前でも既に要職に就いていた。王がいない今は一番の権力者。
●ボルドー・ツェルゲフ
賢人会の一員。40年前にはツェルゲフ隊としてヴィルヘルムやグリムの所属する隊の隊長をしていた。『猛犬』という通り名があった。
●ヴィンセント・ヴォラキア
第77代ヴォラキア皇帝。本名ヴィンセント・アベルクス。今回の騒動はヴィンセントの掌の上であり、自分の右腕を飛ばさせるのも織り込み済みだった。
●セシルス・セグムント
九神将の壱。ヴォラキア最強の剣士。7年前の選帝の儀では、ヴィンセントの軍に所属し、一人でほぼ全ての軍を壊滅させた。刀を複数所持している。今回は一番刀と二番刀は預けていた。
●バルロイ・テメグリフ
九神将の玖。飛竜使いであり、陽魔法と風魔法を組み合わせ上空から魔法で狙撃する。今回の計画はヴィンセントから全て知らされていた模様。
●ゴズ・ラルフォン
九神将の一人。序列や強さは不明。バルロイの死の偽装後、バルロイと密談していた。
●モグロ・ハガネ
九神将の捌。鋼人であり、鋼鉄の体は固く、腕がもがれてもくっつけることができる。
●グルービー・ガムレット
九神将の陸。全身に武器を纏った鬣犬人。
●チシャ・ゴールド
九神将の肆。武力はないが優れた軍師。ユリウス達と顔を合わせていた際に誰かに化けていたらしい。『選帝の儀』ではヴィンセントと共におり、選帝の儀の後に髪の色が全て変化してしまった。
●ベルステツ・フォンダルフォン
帝国宰相。今回の騒動でヴィンセントに疑われ不審な動きをしていた。7章でも恐らく敵の中心はベルステツ。
解説・考察
今回の騒動について
最後には全てヴィンセントの掌の上だったような描写ではありましたが、どこまでが計画していたことだったのかわかりませんが、
・バルロイがヴィンセント側だった
・右腕の喪失とフェリスの治療は織り込み済み
ということはわかっていましたね。特にフェリスのことなんて『半々獣』と呼んでおり、普通は見た目から半獣としかわかりませんよね。でもフェリスをそう呼びました。フェリスは先祖返りで猫耳が生えています。しかしそう呼んだヴィンセントはフェリスの何かしらの情報を知っていたようです。マイルズがフェリスの父親に死体の斡旋をしていたので、そこから情報を得たのかもしれません。
そして、最後に出てきたベルステツですが、恐らく今回の反乱の首謀者は彼ではないでしょうか。ヴィンセントは反乱も掌の上で操っていたと思われますが、実際に反乱を起こしたのはベルステツに皇帝の資格あるものにしか握れない陽剣を差し出したり、皇帝の座を狙っているのがベルステツだと思ったから、あんな行動に出たのでしょう。
ベルステツがバルロイに指示をしていたのではないでしょうか。しかしそのバルロイは皇帝の指示に従って動いていたとか。ちょっと想像に過ぎませんけど、7章の反乱を思えば、ここでのベルステツの動きは、7章の内乱の兆しだったということですよね。ただ、結局なぜこんな事をしたのかよくわかりません。ラインハルトの力を啜りたかったのか、反乱者を炙り出したかったのか。セシルスを成長させたかったのか・・・全部かもしれません。
バルロイの目的
今回のバルロイの最終的な目的は義兄弟のマイルズを殺したラインハルトに復讐をする為でした。もしかすると皇帝がラインハルトを呼んだ理由にバルロイに計画の全貌を話していたことからも、バルロイの願いを聞き入れたのかもしれません。それもあり、バルロイは自分が死の危険があっても皇帝に全面的に従ったのかもしれませんね。
ちなみにマイルズが死んだ内容ですが、フェリスの実家で起こした事件から翼竜に乗って逃げますが、上空なのにいきなりラインハルトがマイルズの翼竜に乗ってきます。ラインハルトが投降を勧めますがマイルズはそれを聞かず、翼竜に指示を出して旋回させ、ラインハルトを転落させます。しかしその後、下から光に呑み込まれマイルズも翼竜も痕跡を残さず空に蒸発しました。
ちなみにコミックアライブの外伝『赫炎の剣狼』では、セリーナ・ドラクロイ上級伯という人物の部下としてマイルズとバルロイが一緒に登場して、セリーナの指示で一時的にプリシラの護衛もしたりしていました。個人的には今回の戦いを見て、九神将の一番下の序列なのに、僕には8番目のモグロや6番目のグルービーよりは総合的に強そうに見えました。キャラ的にも良いのにここで死んでしまったのはかなりもったいないと思っています。
水晶宮
そしてラインハルトに首輪を嵌めた理由は、ラインハルトから何かしらの力を啜って水晶宮に与えた為のようでした。するとマイクロトフがあれで案外機能的な建物であり、防衛機能に貢献していると話す。有事の際には魔石が一つの魔法を増大し、本来の数千倍の威力へと拡大するとか…。
そして水晶宮はあらゆる箇所に魔石が使われており、それ故に一種の精霊と化しており、生きているということでしたね。さらに、マナの密度が非常に濃いので、いつもと同じように魔法が使えないとか。
「想定外のこともあったが、剣聖の蜜は啜れたはずだな。どれほど満たされた?」『ーー二発。無理、すれば、三発』とヴィンセントと水晶宮の会話がありました。
さらに水晶宮は「有事の際には魔石が一つの魔法を増大し、本来の数千倍の威力へと拡大する」となっており「規格外なのは承知の上だ。こちらもそのおかげで切り札を補充できた」という発言もありました。個人的にはこれは『魔石砲』というものではないかと思っています。
選帝の儀が描かれている『紅蓮の残影』では、ラミア・ゴドウィンというヴィンセントとプリシラの腹違いの兄妹側にベルステツもいたのですが、そのラミアの陣営がヴィンセントとプリシラに同時に魔石砲を放っていましたがとてつもない威力でした。ちなみにそれはアラキアが四大精霊の石塊ムスペルを喰ってそれを力として魔石砲を相殺しています。
ラインハルトの時間を奪ったもの
そしてEX4で解決していない問題。それはあの凄まじい強さのラインハルトの時間が奪われたということです。
「何かが強くのしかかってきた」とラインハルトが言っていました。さらにユリウスは「水晶宮の鼓動が読んで字の如くだとすれば、バルロイ殿が倒れ、ラインハルトの時間が盗まれた瞬間、特別な魔法が使われた可能性がある」と言っています。
考えられるのは二つです。
・水晶宮の魔法
・服従の首輪の効果
水晶宮の魔法は何か一つの魔法を行使できるみたいですが、さっきの通りなら魔石砲だけなかと思っています。ただ、ユリウスの魔法が使われた可能性があると言っているので、それに関わる魔法かもしれません。
服従の首輪はどこにでもあるミーティアだそうですが、ラインハルトの力を啜っていたようなので、やはり何かあったのかもしれません。しかし考察の域を出ないので、なぜラインハルトほどの人物の意識が一瞬奪われ、目覚めた時にはバルロイや帝国兵達が死んでいたのでしょうか?バルロイは偽装でしたけど。
星読みと世界の主人
そして今回ヴィンセントについて謎な発言がありました。
●星読み
これは水晶宮でのヴィンセントとボルドーの会話です。
「お優しいことだな皇帝陛下。特使には観葉に接するよう星詠みでも受けられたか?」「余の抱える『星詠み』が有能なのは事実だが、あれの言いなりになる気はない。ましては貴様の処遇など星詠みに問うまでもないことよ」
何か占いっぽいような事でしょうか?もしかするとこれは水晶宮が未来予知的なことができるのかも知れません。そういえば同じくヴォラキアに長くいたアルも『運が…いや、星が悪かったのさ』が口癖ですよね。もしかするとこの星詠みとかもアルに関わっているとかあるのでしょうか?
●世界の主人
そして一番最後に一人で呟いたこの内容です。全てが自分の思い通りであればどれほどよいか。そんなことを考えてふとヴィンセントは誰にもわからぬ笑みを浮かべた。「この世界はお前にとって都合の良いようにできている、か」それはかつて、ヴィンセントの知る『世界』の主人の魔法の言葉だった。
『この世界は妾の都合の良いようにできておる』だとプリシラのいつもの発言ですよね。でも世界の主人がプリシラなわけないと思うんですよね。だってプリシラはただの妹ですから。これは誰に言われたのか・・・プリシラもいますし、7章で何か明らかになるかもしれません。ただ、「この世の全ては己の都合に合わせて動く、などと嘯くものもかつてはいたが…余はそこまで傲慢ではない」と言ったのはプリシラのことだと思います。
まとめ
ということで今回の内容をまとめます。
・ラインハルトは九神将の3人に勝った
・事件はヴィンセントの掌の上だった
・反乱の首謀者は7章を見ても恐らくベルステツでヴィンセントはそれを炙り出した可能性
・バルロイの目的は義兄弟のマイルズを殺したラインハルトへの復讐
・水晶宮は魔鉱石の集合体でマナの密度が濃く、その為に一種の精霊と化して生きている
・ラインハルトに嵌めていた服従の首輪からは何かの力を吸い取り、切り札の補充をした
今回登場したキャラは恐らく7章にも多数出てくると思います。水晶宮の秘密も多分明かされると思うので、楽しみですね。
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